風を感じて10のお題 ten poems for feel wind


菖蒲って、ずっと殺しの花だと思ってた
だってあやめって、「殺め」とも書けるでしょう?
危険な花だと思ってた
紫の花が咲く湖
その水底に沈む死体
考えるだけでゾッとしない?

夏の空は移ろいがち
昨日が晴れで今日が雨
明日はきっと大嵐
たくさんのものが水の底
道路も、家も、木も、
そしてもちろん、人だって

昨日が晴れで今日は雨
そして明日は大嵐
明後日は晴れで湖に
綺麗なあやめが咲くでしょう

水辺いっぱいの紫が
満面の笑みで咲くでしょう



「花と嵐」




伸びる伸びる
長い影
額に入った切り絵のように
くっきりと浮いている
伸びる伸びる
君が太陽に近づくたびに
草の間を駆け抜ける

まるで君は
どこまでも行けるかのように
太陽に向かって

そして僕は
君が切る風の音を聴いている


[夏至祭に乗るブランコ]



「君の声が聴きたいよ。」
まだ 携帯もない時代
僕らは互いに遠い場所で暮らしていて
手紙の交わりが 僕らの関係を繋いでいた
君の手紙の最後には、いつも同じ一言が書かれていた

「僕だって、君と話したいよ…」
顔もおぼろげになりゆく君への想いは
日に日に増し、僕は君への
想いが風に乗り、君の元へ届けばと、
途方もないことを夢想しては、溜息で
空を染めていた。

理系のロマンチスト程、扱いにくいものはない。

「今日は帰りが遅くなる。食事は家で食べるから」
『そう、今日は魚を焼くから』
あれから時は流れ、
世の中には携帯が普及し、
僕らは、一緒に暮らすようになった
あの時僕らが望んだ幸せが、確かに今、ここにある

それでも僕は、欲張りにも
あの日のあの不自由さ、
もどかしさを思い出しては
溜息を付いてしまう

君への想いを風に乗せ
君の元へと届けられたら
あの頃の若さと焦燥を
思い出しては苦笑する

理系のロマンチスト程、扱いにくいものはないのだ。

昔も今も、変わらずに



「君の声を届けて欲しくて」




あの時
私の背中を押したのは
それはまるで
奇跡のような神の風

「カミカゼ」



あの日、私は泣いていた。
泣きながら埋めた 紫陽花の亡骸
晴れた日の原っぱ 私一人
覚えているのは、あの日の暑さと
汗を乾かす夏の風、そして
この手で砕いた 蝉の抜け殻。
10年振り?いや、もっと長い間、
私はその場所を避けて生きてた
久しぶりに、私はその場所へ行ったわ
子どもの頃の 私の聖域

聖域は、今も昔も変わらずに
私を冷たく 迎えてくれた。
紫陽花の墓跡など 微塵もなく
手入れの施されていない荒地が
ただ殺伐と 広がるばかり。

多分、私は泣いたと思う。
10年前の私が望んだ未来
その姿と、今現在の私は
絶望程に遠く 離れていた。
泣きながら紫陽花を埋めたあの頃の
私の努力は、遂に
報われることがなかったんだ。
泣いていた筈なのに涙はなく
ただただ、額から汗が零れるばかり
濡れた額を風が撫でる


晴れた空の下、私が確実に覚えていること。
あの日砕いた、蝉の感触



「夏風」



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