宵の囁き written by Suika


推敲を重ね綴った手紙は
想い破れて 捨てました
手垢に塗れた真実は
純粋な誤解に掻き消され
潔白な悪意/汚濁の誠意
天使にも悪魔にもなれないのなら
量産された幸福の棺で
花を抱いて眠りましょう
腐った花を抱きましょう
(眠りへ導く薬 一生分服用)
(得られたものは永久なる安眠)
(払う対価は私自身)
『さようなら、冷めた現実』
(覚めず切なく 墜ちて候)
腐敗し蛆沸き 朽ち果てて
それでも私が願うのは
それでも私が望むのは
混沌に伏した意識の中で
囁く貴方の刹那い歌声
(墜ちて候 墜ちて候 )
(恋し愛しく 往きて候)
『宵の囁き』

『ねえ、おねーさん。僕を抱いてよ』
薄氷のような月 一つ
灯の明るさ
と
色恋沙汰の嬌声で華やいだ
この街は遊侠の宴
一夜の恋を金で買う
そしてそこに、其れはいた。
四辻から生まれ出るは少年
素肌に臙脂の襦袢を纏い
黒絹の髪が彩る珠肌
爛々と輝く黒曜の双眼
手足が異様に長く、細く
私を捕らえて離さない
首筋に巻き付く二本の腕は真白き花
濡れた瞳が私を見つめ
潤んだ紅い唇が
耳元で 囁いた
『ねえ、お姉さん。僕を、抱いてよ』
その味を知ればもう
逃げられはしない 袋小路
全てが終わり後に残るは
赤紫の抜け殻と
甘美に惚けた奴隷を手に入れ
氷白の下で嗤うたまゆら
『宵の囁き』